婚約契約書とは?公正証書にできる?

「婚約したことを公正証書にできますか?」「結婚することを契約書にできますか?」と相談されることがあります。婚約と契約書についてまとめました。

 

婚約契約書とは?

結婚する約束を婚約といいます。婚約したことを書面にした契約書を「婚約契約書」といいます。(法律上に定義があるわけではありません)

 

婚前契約書とは?夫婦財産契約書とは?

婚前契約書(結婚契約書、婚姻契約書)」という書類も存在します。こちらは主に、結婚後や離婚時の財産についてまとめた契約書です。海外では有名で、プレナップ(Prenuptial Agreement)で検索するとたくさんヒットします。また、契約結婚や事実婚(事実婚契約書)のときにも利用されます。

 

婚約証明書とは?

「婚約証明書」で検索すると、いくつかの市町村のページがヒットします。ただこちらは、公営住宅の入居などの申し込みの際に、これから夫婦として住む予定なので入居させてくださいという、婚約している二人が、市町村に対して、婚約していることを証明(誓約)しますよ、という書類です。

町村が「あなたたち二人が婚約していることを証明しますよ」という書類ではないことにご注意ください。

 

婚約や結婚の合意書は作成できる

当事務所へのほとんどのご相談は「婚約したことを書類に残したい」「将来、結婚することの約束を書類に残したい」という目的なので、当事務所では「婚約の合意書」という名称でご案内しています。

※ 「婚約契約書」だと、婚約することが目的のように感じてしまいます。もう婚約はしていて、婚約したことを書面に残すことが目的なので「婚約の合意書」としています。また、婚前契約書や婚姻契約書と似ているので…。

※ 「証明書」という言葉は、誰か(例えば市町村や公共団体)が誰かに何かを証明する書類(身分証明書や印鑑証明書が有名ですよね)をイメージするので、婚約する当事者二人の約束であれば、合意書などが適切かと思います。

 

婚約の合意書の目的は?

「婚約の合意書」を作成する目的は、やはり安心感だと思います。過去のご相談は「本当に結婚してくれるのか不安」「とある事情でいまは結婚できないが、将来、結婚すると約束している。ただ、もし、結婚しないのであれば違約金(慰謝料)を請求したいので書類に残したい」という内容です。

書類を作成することで、安心して暮らすことができるのであれば、意味があると思います。

※ 結婚詐欺やストーカーのようなトラブルが原因となって起こった悲しい事件が報道されています。お金の貸し借りや贈与が伴うのであれば、事前に「婚約の合意書」を作成し、その中に、もし結婚しない場合にはお金を返す、違約金として同額を払う、と書いた方が安心かもしれません。(ただ、お金がない人からは取り戻すことが困難なので、注意が必要です)

 

婚約の合意書の内容は?

「婚約の合意書」には、このような内容を書くことが多いです。

・令和〇年〇月〇日、両者が合意の上で婚約したこと

・婚約の証として〇〇したこと(結納、顔合わせ、指輪を送る、結婚式場の仮予約など)

・いつまでに入籍すること

・違約金について(後述します)

・入籍までに浮気しないこと(浮気とは具体的になにか、人によって違うでしょう)

・入籍までの生活費の負担、財産や仕事のこと

など。

入籍日をいつにする、名字をどうする、本籍をどこにする、結婚式はするか予算はいくらか、など、なにか心配やこだわりがあれば、事前に書く(おおまかに決める)ことで、のちのトラブルを防止できる側面もあります。

 

ポイントは違約金について

最も難しいのが違約金(婚約破棄のときの慰謝料など)についてです。

例えば、婚姻中に浮気して離婚するのであれば、浮気した側が慰謝料を払います。しかし、婚約破棄はそう簡単ではありません。例えば、男性が風俗に行って、女性がそれを理由に婚約を破棄する!となった場合(男性は結婚したい)、婚約を破棄したいのは女性側です。このとき、どちらが違約金を払うかが難しくなります。

独身の男性が風俗に行ってはダメ、というのは個人の価値観や風俗の種類によるでしょう。異性とデートしただけの場合はどうなるか、証拠がない場合はどうなるのか、異性とホテルに入ったけれど何もしていないと主張している場合はどうなるのか、などが懸念されます。

暴力があった場合も同じです。男性からの暴力を理由に女性が婚約を破棄しようとしても、男性が暴力を認めないかもしれません。その場合、逆に女性が違約金(婚約破棄の慰謝料)を求められるかもしれません。

その他、名字をどうするかの意見が一致しないなど、どちらか一方が悪いとは言えない場合の、結婚式場のキャンセル料の負担なども曖昧です。

このように、安易に婚約したり、婚約の契約書を作成してしまうと、想定外のことが起こったときに、ご自身が苦労するかもしれません

 

効力は100%ではない

結婚は身分に関することなので、入籍するときに「結婚する意志」が必要となります。このため、どんな契約書があるにせよ、「書類があれば絶対に入籍を強制できる」というものではありません。あくまで、現時点で結婚する意志がある、あった、ということです。

もちろん、結婚の約束をしたのに結婚しないこと(婚約破棄)は慰謝料(精神的苦痛に対する損害賠償)が発生すること自体は有名ですし、慰謝料請求が可能になると思います。逆にいうと、それだけとも言えます。

 

公正証書にはできないが、認証という方法がある

婚約の契約書を公正証書にできるか?ということも聞かれます。結論から書くと、ほぼ無理です。

公正証書にできるかは全国に数百人以上いる公証人のそれぞれの見解によりますが、経験上、難しいです。

・結婚はそのときに両者の同意が必要なものであること(公正証書がなじまない)

・本当に結婚したいと思っているかなど気持ちは他者(公証人)からは分からないこと

・嫌いになったなど感情に関係する違約金の設定が難しいこと

・結婚に条件はなじまないこと(借金を返さないと結婚する、などの約束は無効)

・そもそも公正証書にする理由があるのか理解しにくいこと

などがあるようです。

ちなみに「婚前契約書(夫婦財産契約)」であれば、内容によっては公正証書にできることもあるようです。

 

私署証書は可能

ただ、公証役場で、私署証書として書類を残すことは可能です。

公証人の行う私署証書の「認証」とは、何ですか?

私文書の成立の真正を証明するため、私文書にされた署名(署名押印)または記名押印(押印)が本人のものであることを、公証人が証明することです。

引用元:日本公証人連合会

私署証書の認証とは、二人で作った書類(婚約の合意書)を、公証人に内容を確認して貰って、公証人の前で二人がサインして、そのことを令和〇年〇月〇日に〇公証役場の〇公証人が確認したよ、という書類を出してくれるものです。

内容の確認があるので、違法なことや、ありえないことは書くことができません。それぞれの身分証明書が必要です。公正証書との違いは長くなるので書きませんが、認証は「違法性のないこの書類を二人がサインしたよ」というだけです。

私署証書の認証を行うことで「日付が違う!」「俺はサインしていない!」というトラブルを防ぐことができます。費用は5500円です。(ちなみにサインした日は意外と重要です。あとになって浮気が発覚した場合など、婚約が成立した日と浮気した日の前後で話が変わってくる可能性があります)

「婚約の合意書」であれば、「私署証書の認証」を受けることが現実的かなと思います。

 

その他:Q&A

結婚している人が「婚約の合意書」にサインできるか?

すぐに結婚できない理由として、既婚者との結婚の約束が考えられます。

既婚者が婚約の合意書にサインしてはダメ、という法律はありません。ただ、日本は重婚が禁止されているので、書類に関係なく、その「婚約」という行為がどこまで認められるかは不明です。道徳的には難しいので、書類に効力はないと考えた方が無難だと思います。どちらにしても、婚約が破棄された場合、違約金の金額の話でしかありません。もし、その既婚者の男性が妻と結託して、「俺に婚約破棄の慰謝料を請求するなら、妻があなたに不倫の慰謝料を請求します」と主張してきたら困りますね。(既婚者との交際=不倫ではありませんが、やはり既婚者が離婚してから交際や婚約をした方が健全かと思います)