親権を父親に譲る、という選択肢

現在は離婚のとき、未成年の子供がいると必ず親権者を母親か父親に決めなければなりません。統計上、親権者は約9割が母親で、約1割が父親になります。

インターネットで親権について調べると『父親が親権を取るにはどうしたらいいか』という情報がたくさんヒットします。養育費について書かれているものは、当然のように母親が請求する側として書かれています。

このように、どこか『母親が親権者になるのが当然』 むしろ『母親が子供を見捨てるなんて有り得ない』というような風潮にさえ感じてしまいます。もちろん、さまざまな研究でも幼い子供は母親と暮らす方がよいとされていますが…。

母親より、父親が親権者に相応しいケースもゼロではありません。ただ、上記のような背景から母親が親権者でないと『この母親は異常だ…』と思われてしまう、という悩みをお持ちの方もいます。このページでは、父親が親権を持つことについて書きたいと思います。

※父親と母親で親権を奪い合うケースの話ではありません

※当事務所では親権の争いに関するアドバイスはできません

※子供の親権は母親だけの権利ではないので「譲る」という表現は正確ではありません。

※今後、共同親権が可能となります。あくまでこれまでのことです。

 

どんな理由で、父親が親権を持つことになったのか

父親が親権者となるケースで多いのは、父親が親権を希望し、父親の家族(親や兄弟)が面倒を見られる環境である場合です。

やはり、母親にしろ、父親にしろ、ひとりで働きながら子供を育てることは大変でしょう。無理ではありませんが、父親の実家で、いつも家にいる祖父母と暮らす方が安心、という場合もあるかもしれません。

母親の精神的な事情により、父親が親権者になるケースも多いようです。うつ病は、男性より女性の方が約2倍も多いそうです。特に、産後うつ、育児ノイローゼなど、小さい子供を育てながら離婚に悩む母親には、本当に辛い状況が考えられます。

実際、夫の不倫に悩み、眠れなくなってしまった母親が、心療内科に通うことになり、そのことを理由に『そんな人間に子供を育てることは出来ない』と父親が親権者になったというケースもあります。つらいことですが、そう珍しくはないのかもしれません。

そして、経済的な事情により、父親に親権を譲った方もいます。いくら養育費を受け取る権利があると言っても、働きながら養育費や児童扶養手当を受け取る母親より、父親の方が裕福であるケースが多いようです。

『フルタイムで働いても、子供を不自由なく育てられるのか?父親といた方が、少なくともお金では困らないのでは?』とお悩みの方もいます。

 

子供と暮らさない母親はどういう目で見られるのか

子供と暮らさない母親がどんな苦労をしているのか、まとめてみました。

不倫したり、離婚の原因を作ったと思われる

『子供はいるけど父親が育てています、と言うと、不倫でもしたの?と言われることがあります』と笑って話してくれた方がいました。実際にどんな事情があったとしても、やはり母親がなにか悪いことをした、と思われることがあるそうです。

父親が親権=母親が虐待したのでは?という先入観

不貞を疑われることと同様に、虐待などを疑われることもあるようです。父親が親権者になった理由として、母親の虐待が調査結果にありますし、シングルマザー(の彼氏)の虐待がニュースとして多く取り上げられることも影響しているかもしれません。当たり前ですが、父親が親権=母親が虐待した、というわけではありません。それでも、そんな先入観を持っている人もいるようです…。

子供が可哀想!という善意の攻撃

やっかいなのが、理由も知らず「子供が可哀想!子供は母親と暮らすのが幸せに決まっている!私には絶対に考えられない!子供と離れて暮らすなんて信じられない!子供を見捨てるなんて母親失格!」という、善意の攻撃です。その人がどう思うか別として、世の中にはどうしようもないこと、理不尽なことがたくさんあります。泣く泣く親権を父親に任せた方もいるのです。そして、そうした事情は、簡単に他人に話せることではありません。いちいち説明するのも無意味ですし。言い訳はしないけれど、やっぱり傷つくそうです。

 

それは、子供の幸せを一番に考えた結果なだけ

絶対に母親が育てられないときにだけ、仕方なく親権は父親に…というわけではありません。理由なんて無くてもいいのです。それが、家族にとって一番、幸せになれる選択なのであれば。母親が働くことが好きで、父親が子育てに向いていたので、母親はいっぱい稼いで養育費をたくさん支払う、でもいいでしょう。

夫の実家で同居していて、中学生の子供が転校したくない、夫の実家で暮らし続けたいので父親が親権者に、という方もいました。子供にとっての幸せは、誰に育てられるか、ではなく、住む場所の場合もあるのです。お金があれば幸せとも限りません。

子供の年齢や状況によって、なにが子供の幸せなのかは分かりません。『親権は私が!』と思う前に『子供が望む幸せはなにか?』を考えることが最も重要なのです。

 

子供に選ばせるのはダメ

あくまで当事務所の考えです。親権を考える中で、絶対にオススメできないことは「子供に親権者を選ばせる」ことです。特に、小学生以下の子供に対してです。子供が一緒に住む親を選ぶということは、もう片方の親を捨てさせるということです。その残酷さは計り知れません。将来、「7歳のあなたが私と暮らしたいと言ったんだよ?」と言われても困ります。子供は責任を負えないのです。

そして、子供は自分のことだけを考えるわけではありません。親を守ろうとしたり、迷惑をかけないように考えます。例えば、母親が専業主婦の場合、本当は母親と暮らしたいけれど、お金のことで母親に迷惑をかけたくないから父親を選ぶかもしれません。逆に、本当は父親と暮らしたいけれど、浮気された母親が可哀想だから母親を選ぶかもしれません。他にも、同居している祖父母が可哀想、友達を離れたくない、などを優先するケースもあります。未成年の子供、特に小学生以下のお子様は自分で冷静な判断ができません。だから親権者が必要なのです。

子供の話や考えをよく聞くことは大切です。しかし、聞く場合は配慮が必要です。「離婚するけど、どっちと暮らしたい?」は不適切です。子供は大人のような発言をすることもありますが、精神的には幼いことを忘れないでください。

また、配偶者に無断で親権の話をするのも良くありません。特に離婚が決まっていない中で「離婚するからお前とは一緒に住めなくなる」とか「お母さんが離婚したいって言ってるけどどうする?」のような内容です。子供は離婚が回避できるよう努力します。そして、それが叶わなかったときに責任を感じることがあります。理想は、親権は両親が子どもの幸せを一番に考えて話し合い、両親の責任で決定し、決まったことをお子様に伝えることです。

極端に言えば、子供が父親と住みたいと言っても、それがお子様のためにならないのであれば、両親の責任で親権者を母親とすることもあります。どちらの収入が高いとか、どちらがより子供のことを愛しているなどは1つの要素に過ぎません。総合的、将来的に、お子様のとってどちらと暮らすことが相応しいかです。

もちろん、実際には両親で冷静に考えること、話し合うことは困難です。感情的になってしまいます。自分でいいのか、不安もあります。ただ最低限、子供が責任を感じるようになることだけは避けましょう。子供に親を選ばせるということは、子供の意見を尊重しているのではなく、ただの無責任です。

 

親権と監護権を分けることはオススメしない

インターネットで検索して、親権と監護権が分けられる、という情報を知っている方も多いかもしれません。親権は離れて暮らす父親、監護権は一緒に住む母親、とするケースが多いと思います。ただ、デメリットや心配も多く、基本的にはオススメできません。

例えば、将来、お子様が大学無償化の対象外となってしまう可能性があります。(これは共同親権のニュースでも報道されていましたね)

Q13 父母が離婚し、親権者は父ですが、学生本人は親権のない母と二人暮らしです。「生計維持者」は母(1名)でしょうか。

A13 この場合の「生計維持者」は原則として父母(2名)となります。親権者は未成年の子に対して身分上・財産上の監督保護を行う義務がありますので、学生本人と別居していても親権者である父は「生計維持者」に含まれます。

引用元:高等教育の就学支援新制度授業料等減免事務処理要領(第2版)

大学無償化という言葉をご存じでしょうか? 令和2年4月から、親の収入が低い場合(住民税非課税世帯など)、大学(国公立も私立も)、短大、専門学校など、さまざまな高等教育にかかる費用の大半を援助してくれる制度が始まっています。※収入制限など、諸条件あり。

詳細は書きませんが、シングルマザー(ひとり親)が子供二人を育てる場合、年収250万円程度以下であれば、国立大学の入学金・授業料(約80万円)が無料になります(減免されます)

しかし、上記のように、親権と監護養育権を父親と母親で分けた場合、父親(母親)の収入も加算されるので、普通のご家庭では対象外になる可能性が高くなります。もちろん、父親(母親)が高収入で高校卒業後の進学費用を国の制度を使わずに自分で払いたいなら構いませんが…。

その他、重大な場面ほど、親権者の役割が大きくなります。親権と監護権を分けることは相当な覚悟、考えがある場合に限った方が良いと感じます。

 

当事務所として、お手伝いできること

少し述べたように、離婚のときは、かなり精神的に辛く、正常な判断ができないことがあります。そして、自分では大丈夫、と思っていても、後から考えると、ぜんぜん大丈夫じゃなかった、ということがあります。

まずは、適切な相手に、必ず相談してください。ただ『子供は母親が育てる以外には有り得ない』という考えの方もいますので、しっかり相談する人を見極めてください。

そして、もし、父親が親権者になる場合は、子供との面会について、しっかり公正証書で約束を残しましょう。ケンカ別れのようになにも書面に残さないと、面会できずに子供にとっても悲しいことになるかもしれません。

逆に、自分が育てると決めたのなら、養育費について公正証書を作成しましょう。どうせ払ってくれないから!自分ひとり育ててみせる!あんな男には頼りたくない!一切の関係を絶ちたい!と短絡的に決めて、困るのは母親ではなく子供です。養育費は子供の権利です。その他、各種制度やサービス(大学無償化、私立高校無償化、養育費保証サービスなど)も知っておきましょう。

まずはお近くの専門家に相談されることをオススメします。

 

終わりに…

このページを読んでいる母親は、かなり精神的に追い込まれている方が多いようです。夫婦には様々な事情があります。母親が全員、子育てに向いていて、無条件に子供を愛せるわけでもありません。

まず大事なことは、ご自身を責めないことです。誰が悪い、なにが悪かったかを考えても好転はしません。そして理想と比べないことです。理想や他の幸せそうな家庭と比べても、意味はありません。上を見ればキリがありません。焦らないことも大切です。明日からすべて解決して幸せになれる魔法はありません。

困ったとき、辛いときは、誰かに相談することがオススメです。ひとりで考えていても、ネットで検索しても、あまり良い方向には向かいません…。できれば、アドバイスをくれる人ではなく、応援してくれる人がオススメです。

※当事務所では親権が決まっていていない場合に書類作成はできません。親権で揉めそうな場合などは、お近くの弁護士さんにご相談ください。

 

子供の幸せを最優先に考える離婚

行政書士札幌中央法務事務所では「子供の幸せを最優先に考える離婚相談&公正証書」をテーマに、児童扶養手当や養育費など、離婚後にお子様の経済的な不安をできるだけ減らすことを目的とした書類(離婚協議書や公正証書案)の作成を得意としています。メールやLINEで24時間、無料でご相談頂けます。書類作成の面談は2時間まで無料です。どうぞお気軽にご相談くださいね。全国からご依頼いただけます。