『養育費の代わりに住宅ローンを払って貰いたい』というご相談はとても多いのですが、勘違いしている方もいます。
よくあるのが、夫が別居をはじめて(家出して)マイホームに妻と子供が住み続ける場合で、夫に生活費(婚姻費用)を請求したところ、住宅ローンは俺が払っているんだから、婚姻費用から住宅ローン分を引いた金額を払う、という主張です。
住宅ローンの毎月の支払額は関係ない
そもそも住宅ローンの毎月の支払金額は、自分たちで勝手に決めた金額です。同じローン総額でも、35年ローンなら毎月8万円、20年ローンなら毎月15万円かもしれません。
でも、毎月、いくら払っていようと、その家の広さや新しさが変わるわけではありません。 つまり、毎月のローンの返済額=家賃、ではまったくないのです。
住宅ローンの支払いは資産形成
住宅ローンの支払いは賃貸と違って、資産形成の側面があります。払った分だけ残ローンが減って、売ったときに利益ができます。(経年による不動産価値の下落もありますが)
この利益は奥様だけのものではありません。このため、マイホームに俺は住んでいないのだからローンは妻が返済しろ!というのは合理的ではありません。
結局、どうするべきか?
そうは言っても、住宅ローンに加えて、ご主人のひとり暮らし用の家賃もかかるのであれば、生活は大変です。また、奥様も家賃は払わなくても、日々の食費などが貰えなければ大変です。ケンカしていても仕方ないので、解決しなければなりません。
家賃相場で計算するのは無理
例えば、近隣で同じような条件を家を借りたときの家賃を、養育費の相場から差し引く、という考えもあります。しかし、この場合、ほとんどが養育費よりも相場の家賃の方が高くなってしまい、養育費はゼロ、もしくはローンの一部を負担しろ(マイナス)になります。なぜなら、賃貸というは、貸している人の利益も上乗せされているためです。一戸建てやファミリー用の住宅は、戸数も多くなく、だいたい高いです。
妻の収入に応じた、一般的な家賃分を差し引く
「奥様の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当」という考え方が有名です。
ざっくり、これくらいの年収のひとは、これくらいの家賃の家に住んでいる、という統計があります。年収約200万円の場合、家賃2万8千円です。
婚姻費用の算定表の金額から、この2万8千円を引いた金額を婚姻費用として受け取ります。婚姻費用の算定表は検索してみてください。お二人の年収、お子様の年齢などで目安が分かります。
家賃については、総務省が公表している家計調査年報という調査結果を検索してみてください。収入に応じた標準的な住居関係費というものです。これだと、奥様の年収が200万円以下の場合、家賃は約2万8千円くらい。年収600万円でも5万円くらいの家賃となります。
詳しくは【住宅ローン 婚姻費用 判例】で検索してみてください。
夫の不倫が原因の場合、まったく考慮されない
夫の不倫が原因で夫が家出した場合、婚姻費用にまったく関係ない、という裁判例もあります(大阪高等裁判所 平成21年9月25日)
とにかく、俺の住んでいない家の住宅ローンはすべて妻が払え、というのはまったく無理ということです。
冷静に話し合うことが大事
他にも計算方法はあるようですが、どれもご主人に厳しい内容です。ほとんどが、ご主人が住宅ローンを払い続けて、婚姻費用から3万円とかを差し引く、くらいです。ただ、だから妻に有利、ということではありません。ご主人が納得できないのであれば、じゃあ離婚して売りましょう、となるだけです。住み続けたい場合などは、冷静に話し合うことをオススメします。
逆にそれでいい、という妻
こうした話をご紹介したとき、住宅ローンを夫が返済して、私と子供がそこに住めれば、養育費などはいらないです、という方も多いです。それは、夫は私を見下しているので、ちゃんと養育費を払うとは思えません。でも、ローンは払わないと夫自身が困るので、ちゃんと払うと思います。世間体を大事にするので。という内容です。確かに、いま、家を売っても借金(ローン)しか残らないかもしれません。子供たちと3人で暮らそうと思ったら、それなりの家賃も必要です。夫の養育費が期待できないなら、せめて住む場所に困らないことが大事、ということです。
奥様へアドバイス
住宅ローン8万円を返済し、養育費7万円も払え、というのは、よほどご主人の収入が高くない限りは無理です。しかし、養育費数万円をもらっても、いまと同じ広さ、新しさの家に住むことは難しいでしょう。養育費も絶対に支払いが続くかは分かりません。
経済面だけ考えるのであれば、マイホームに残ることがオススメです。もしも夫が死亡したとき、養育費はゼロになりますが、マイホームはローンもゼロになって、家が残る(子供に相続される)かもしれません。※契約上の注意もあり
ご主人へアドバイス
上記にあるように、住宅ローンの支払いはご主人本人の資産形成の側面もあります。目先の利益だけを考えてマイホームを売却すると、子供が暮らしに困るかもしれません。特に男の子のお子様がいる場合や子供が2人以上いる場合などです。
資産形成もできて、万が一のときに家を子供に残せる、子供や元妻に感謝されるのであれば、そんなに悪い話ではないと思います。もちろん、多額のローンが残る不安、将来の不動産価値の下落も気になると思います。重要なことは、家の本当の価値、ご自身の将来のライフプランです。なんとなくで決断せず、しっかり考えることをオススメします。
最後に
マンションか戸建てか、売却しやすい家なのか、などにも影響します。まずは専門家に相談して、しっかり書類を残すことをオススメします。
離婚の前に知っておくべき100のこと
当事務所ではこれまでたくさんの離婚や不倫の相談に応じてきました。LINE登録は4千件以上です。これまでの経験や知識を「離婚の前に知っておくべき100のこと」としてまとめています。
書類作成の費用や当事務所のことはトップページの『子どもの幸せを最優先に考える離婚相談』をご覧くださいね。全国からご依頼いただけます。