夫婦間の契約書(誓約書)の効力と効力を最大にするための方法

当事務所ではこれまで多くの「夫から妻への誓約書」や「夫婦間の合意書」を作成してきました。その中で「どのくらい法的効力がありますか?」と聞かれることも多くあります。情報や注意事項をまとめました。

 

夫婦間の契約の取消権とはなにか?

民法第754条に「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。」とあります。これが「夫婦間の契約の取消権」と呼ばれるものです。夫婦間のことに法律は介入しないよ、という趣旨です。

ただし、

・夫婦関係が破綻しているときに契約した場合は取り消せない

・(取り消したいときに)すでに夫婦関係が破綻しているときは取り消せない

という例外があります。このため、多くのサイトには「浮気などが原因で夫婦間の契約書を作成するときは、夫婦関係が破綻していることが多いので、基本的には有効」ということが書いてあると思います。

 

夫婦関係が破綻しているときとは?

ここでポイントになるのが「夫婦関係が破綻しているとき」とはどんなときか?ということです。分かりやすいケースは、別居しているときです。今回のことが原因で別居しているときなど、それが原因で夫婦関係が破綻した、と客観的に考えられやすいでしょう。しかし、いつからいつまで別居していたか、あとになって証明できるでしょうか。また、一緒に住み続けている場合はどうでしょう? 心の中は本人にしか分かりません。自分の中で破綻していた、と思っていても、相手はそう思っていないかもしれません。

対策としては、作成する書類の中に、できるだけ夫婦関係が破綻していたことを書くことが考えられます。

 

夫婦間に時効はないって知っていました?

「夫の不倫を知ってから3年以内に離婚しないと慰謝料は請求できないんですよね?」と聞かれることがあります。これもよくある誤解です。

民法第159条に「夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。」と書かれています。夫婦間のことは、離婚して半年を経過しないと、時効は関係ない、ということです。つまり、浮気が発覚して、それから4年経過していても、慰謝料を請求できる可能性がある、ということです。夫婦の誓約書に関しても、期限があるわけではありません。

では、20年後に離婚するとして、慰謝料は認められるでしょうか?

残念ながら、難しいそうです。時効がないといっても、20年以上前のことが原因で離婚するわけではないですよね。その場合、因果関係がないので難しいそうです。何年以上ならダメ、何年以下ならダメ、という明確な基準はありません。

 

離婚の約束は実質的に意味がない

「子どもが成人したら離婚する」「中学を卒業したら離婚する」「また浮気したら離婚に応じる」などを書きたい、という相談が多くあります。

ただ残念ながら、将来の離婚の約束を書いても、ほぼ意味はありません。結婚や離婚は、そのときに両者の意思が必要なものなので、いくら事前の約束があっても、そのときに本人が拒否すれば成立しません。その紙を役所に持っていっても、ご主人が離婚届にサインしない限り、協議離婚はできません。

ただ、離婚の裁判をしたときに、その書類が証拠や根拠の一部となる可能性はあるそうです。そういう意味では、法的効力がゼロではありません。しかし、離婚全体のうち、裁判で離婚するのは2%以下と言われています。約9割は協議離婚といって、二人が離婚届にサインして、届け出て成立する離婚です。通常、離婚の裁判はお金も時間もかかります。書類に「離婚に応じる」と書くことはできますが、法的な意味はほとんどありません。(任意は別です)

対策としては、「婚約破棄の慰謝料」のように、その約束が守られなかったときの損害賠償の予定を書くことが考えられます。違約金を書くことで、(ご主人が離婚に応じないと言ってきたときに)多少の抑止力であったり、奥様が金銭的な得をするかもしれません。

 

原則、親権や監護権は予定できない

「離婚するときは親権者・監護権者を妻とする」も同じように、書類に書くことは可能ですが、絶対にその通りになるわけではありません

未成年の子供の親権者(監護権者)とは、そのとき(離婚するとき)に、子供にとってどちらが最適か、で判断されるため、事前に決定することはできません。例えば、夫の浮気で離婚するとしても、母親が子どもを虐待していたケースなど、イメージしやすいと思います。

対策としては、親権を主張しない旨&その根拠などを書いておくことが考えられます。また、今後、共同親権が認められた場合も想定する必要があります。

※ 未成年後見人の指定など、指定はできます。決定されるわけではない、ということです。

 

養育費は自由に変更できる

離婚の公正証書に「養育費は減額しない」と書けない、と知っていますか?

養育費は生きている親の年収、扶養する子供の人数や年齢などによって決定されます。このため、離婚の公正証書に養育費を○万円払う、と書いても、父親が無職になったり、再婚して扶養する子供の人数が大幅に増えた場合など、権利として減額を求めることができます。このため公正証書に「なにがあっても養育費の減額を求めない」と書くことはできないとされています。(公証人に断られます)

同様に、夫婦間の契約書や誓約書でも「養育費を○万円払う」と書くことはできますが、絶対にその通りになるとは限りません。

対策としては、「養育費は22歳の3月まで払う」「養育費の算定表に対して○○」「離婚の公正証書の作成に協力する」などと書くことで、母親側のメリットを増やすことができると思います。

 

夫婦間の書類は原則、公正証書にすることが難しい

「夫婦間の誓約書・契約書を公正証書にできますか?」と聞かれることも多いです。ここまで読んだ方は予想できると思いますが、「公正証書にできない、とは言わないけれど、現実的には難しい」という回答になります。

ネットで調べると公正証書にできるというサイトも多いので、不可能ではないのでしょう。ただ現実的には、多くの方が求める内容(もしものときは親権者を母親にして、養育費をいくら払う)は難しいです。少なくとも、まだ未確定な内容であり、強制執行の認諾は難しいです。詳しくはお近くの公証役場の公証人に相談するのが確実ですが、夫婦間のことは法律になじまないので…と言われる可能性が高いと思います。

こうした理由から、当事務所で夫婦間の書類を公正証書にすることはお手伝いできません、と伝えています。(もちろん、離婚の公正証書は離婚の前でも作成できます。あくまで、再構築を前提とした書類の話です)

対策としては、公証役場にて、「私署証書の認証」という形で書類を残すことが考えられます。説明すると非常に長く、難しくなるので書きません。どんなことでも書ける、というものではありませんが、約束した、ということは形として残ります。

当事務所では、私文書としての誓約書などの作成まではご依頼いただけるので、完成したら、それを持ってご自身で公証役場に相談してください、とご案内しています。

 

ゼロでもないし、100でもない

「夫婦間の契約書や誓約書に法的な効力があるか?」と聞かれれば、法的な効力がないとは言わないが、現実的にはたくさんの制約と注意事項があります!という回答になるかと思います。歯切れが悪いですよね。

過去に「ネットのサンプルを参考に自分で誓約書を作ったのですが、これでいいですか?」という質問がありました。残念ながら、良いともダメとも回答できません。目的がなにか、効力やリスクを理解しているかが不明なためです。(当事務所では、誓約書などの添削(無料でのアドバイス)は行っておりません)

また効力について説明すると、「効力がないなら作成する意味ないですね!」と言われたこともありました。

例えば、離婚するときに慰謝料1億円を払うと書いても法的な効力はありませんが、本人が払ってくれるのであれば問題ありません。逆に離婚の公正証書のように法的な効力があろうが、本人が亡くなってしまえば養育費は受け取れません。

このように、書類はゼロか100ではありません。夫婦間の書類もまったく効力がないわけでも、絶対に効力があるわけでもありません。法的な効力だけではなく、実現可能性であったり、ご自身にとってどんな可能性(リスク)があるかを知ることが大切です。

当事務所では「離婚しないため」「もしものときに子供が苦労しないため」に再構築のための書類であったり、離婚関係の書類を作成しています。

ご主人の浮気のときなど、このまま再構築していいのか不安だと思います。いつか離婚するなら、いま離婚した方が良い条件で離婚できるかもしれないと考えるかもしれません。再構築できなかったときの不安があるかもしれません。

そうした方のために、少しでも安心して再構築ができるための夫婦の誓約書(合意書)を作成しています。再構築の可能性を増やすことで、離婚によって悲しむ子どもを減らすことができれば幸いです。

 

再構築のための誓約書

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